大学へ進学するにあたって、家庭の事情から奨学金の利用を検討している方もいるかと思いますが、奨学金が住宅ローンやその他の借金と同じということは理解しておいた方がいいかと思います。今回は、奨学金利用の現状とその問題点、本当に奨学金を利用してまでして大学へ進学すべきか、ということについて解説していきます。
奨学金とは
奨学金とは、独立行政法人・日本学生支援機構(JASSO)や自治体や民間企業が行っている学生を支援するために学生本人に貸与されるお金のことです。このページでは利用者の多い日本学生支援機構(JASSO)の奨学金について説明していきます。奨学金には返却が不要な「給付型」と、利息が付かない「貸与型第一種」、有利子の「貸与型第二種」があります。
奨学金の利用率
現在、奨学金がどれだけ利用されているかというと、大学学部(昼間部)で48.9%、大学院修士課程で51.8%、大学院博士課程で56.9%となっています。(日本学生支援機構「学生生活調査」2016年度)
大学に通う約半数が奨学金を利用している現状があります。
しかし、奨学金というのは借金です。大学に進学しているこれほど多くの学生が借金を背負っていることは驚きです。
本来、奨学金という言葉は、返却が不要な給付型のみに用いられるべきですが、無利子や有利子の貸与型であっても奨学金という名前が使用されています。
奨学金の返済について
現在、奨学金の債権の回収については民間会社に委託がされていて、その対応は一般の債権回収とまったく変わらないものになっています。ですので、どのような事情があっても委託された民間会社は考慮してくれることはありません。
また、奨学金には支払い期限の延長などの救済措置がありますが、これらを民間の委託会社が提案してくることはありません。なぜなら、債権の回収が彼らの仕事だからです。支払いの延長や、まして支払い免除などを提案することは業務放棄ともなってしまいます。
返済の延期について
奨学金の返済が難しい場合には、返済猶予の救済措置があります。ですが、返済猶予などの救済措置は、借りた本人が申請しなければなりません。保証人の方に日本学生支援機構から返済の催促が来た場合、保証人は返済猶予を申請することができません。借りた本人に連絡を取り、借りた本人から猶予の申請をしてもらう必要があります。ですから、借りた本人に連絡が取れず、申請ができない場合は、延滞金は膨れ続けることになります。
また、現状では救済制度は実質ほとんどの方が利用できていません。働くことができず、生活保護を受けたり、自己破産をしても借金は残り、保証人への請求は続くことになります。救済措置には、本人が死亡した場合に返済免除となるという記載がありますが、実際には死亡していても裁判が起きています。
上限金額と延滞利息
奨学金は無利子と有利子がありますが、有利子の第二種奨学金の場合の借り入れ上限金額は月12万円です。在学4年間の総額は576万円になります。
月に2万円を返済している人の場合、9ヶ月の滞納までは18万円に対して年間5%の延滞金が発生するだけですが、9ヶ月を過ぎると、延滞利息は元本にかかるようになります。つまり、576万円の元本に5%がかかるので、年間の延滞利息は28万8千円にもなってしまいます。これを4年間滞納すれば延滞利息だけで100万円を超えてしまいます。
さらに、9か月以上滞納すると一括で元本と延滞金が請求されます。また、返済は延滞金→利子→元本の順番なので、いつまでたっても借金は減らないという借金地獄に陥ってしまいます。
裁判から強制執行、自己破産に
奨学金の支払いを滞納してしまい、一括返済の請求に応じられない場合、日本学生支援機構は法的措置を取ります。日本学生支援機構が裁判所に訴えるのです。最近は裁判を起こされる件数が増加しており、1年間に1万件近くの法的手続きが発生していて、強制執行が500件、破産者も600件を超えています。
自己破産しても借金は無くならない
しかも、裁判によって借りた本人が自己破産をしても借金はなくなりません。借金はその保証人に移るだけです。そのうえ、裁判中も延滞金は掛かるので、保証人はさらに高額の借金を背負うことになってしまいます。最近では、奨学金を借りた本人だけでなく、親や兄弟、叔父叔母まで巻き込んで、自己破産の連鎖が起こったケースも出てきています。
大学進学で借金はしない
このように奨学金は借金であり、家族や親戚を巻き込んでしまう危険性をはらんだものです。はたしてそこまでリスクを冒してまでして大学へ進学する必要があるでしょうか?
私は、「奨学金を使ってまで進学する必要はない」と思っています。給付型の返済が必要無い奨学金であれば、奨学金を利用して進学することは問題ありませんが、貸与型の奨学金を利用してまで大学へ進学するメリットは多くないと思います。
早慶上智以上の有名大学であれば、大学卒業後の就職は有利になるので、奨学金を利用してでも行く価値はあるかもしれませんが、それ以外の大学であれば借金を背負ってまでいく価値は無いように感じます。現在は、大手企業を除いて学歴主義は薄れてきています。とくにIT関連の企業は学歴を考慮しない会社が多く、有名大学を卒業しているから就職できるというものでもありません。
ただ、大学進学率は2018年度で57.9%となっており、企業の募集要項にも大学卒業が条件となっていることがあります。また、平成29年の厚生労働省の賃金構造基本統計調査結果によると、大卒者の平均初任給額は20.6万円、高卒者の平均初任給は17.9万円で、大卒の男性の平均賃金は39.8万円、女性は29.1万円、高卒の場合は男性が29万円、女性は21万円となっており、平均賃金で10万円程度の差があります。
通信制大学という手段
就職後の賃金格差を考えると大卒資格は持っておきたいところですが、奨学金を借りるのはリスクが高い。そこで利用したいのが通信制大学です。通信制大学であれば奨学金を利用するほどの経済負担はありません。大学によって学費は変わりますが、年間の学費は10万円程度の学校も多く、きちんと単位を取得して卒業すれば大卒資格を取得することも可能です。また、必要な単位を取得すれば、教職員免許や図書館司書などの資格を取ることもできます。
「大学で思い切り勉強したい!」というのであれば、奨学金を利用して大学に進学するのもいいかもしれませんが、「大卒資格が欲しい」というだけであれば通信制大学で十分だと思います。もちろん、通信制大学であっても同じ大学なので、高度な学習をすることは可能です。通信教育部向けに専門の相談窓口を設けて学習の手助けをしてくれる大学もありますし、通信制大学ではスクーリングという制度があり、実際に学校に通って大学教授から直接指導をしてもらうこともできます。
なんとなく大学に進学したいけど金銭的な不安がある、とにかく大卒資格がほしい、という人は、通信制大学を考慮に入れてみてもいいのではないでしょうか。